足立芳宏 (あだちよしひろ)
1958年生。 専攻 近現代ドイツ農村・農業史
(E-mail)  adachi.yoshihiro.32d(at)st.kyoto-u.ac.jp

<履歴>

<主要研究テーマ>

  1. 冷戦期の農業・農村開発に関する比較史的研究
      20世紀中葉(1950年代〜60年代)の日本および世界農業においては、総合開発と科学技術への全面的傾倒のもと、国家主導により様々な農業・農村開発事業が実施された。それは現代農業社会構造の形成に決定的な影響を与えたといってよい。本研究は、品種・肥料・機械などの個々の生産要素に関わる技術開発過程ではなく、農業技術と農村社会開発の関わりに着目する観点から、@農業基盤形成事業(ハード)とA農業技術受容(ソフト)の二側面に即して、当該期の農業開発の「画期性」のありようを歴史学に明らかにすることを目的とする共同研究である。ここで@(ハード)の対象とするのは、主として戦後復興期に実施された大規模国営開拓事業であり、またA(ソフト)の対象とするのは、農業教育と農業改良普及事業、および園芸農民の新技術受容など農民主体に関わる制度と実践である。さらにこれらは一国史的文脈ではなく、グローバル史においてこそ初めてその理解が可能であるとの考えから、米占領期の沖縄、韓国を対象に含め、かつ比較参照としてドイツ・アメリカの農業開発過程についても@Aの観点からその実態を明らかにする。本共同研究では、研究の統括のほか、西ドイツのエムスラント農村開発史、青森県の上北パイロットファームの研究を担当している。
  2. 戦後東ドイツ農村における土地改革と集団化過程に関する社会史的研究
     戦後東ドイツにおける土地改革から集団化に至る過程は、東エルベの農村社会史のうえでは、19世紀前半の農業変革にまさるとも劣らぬ大事件であった。にもかかわらず冷戦期の歴史学においては、この過程は「東エルベ・ユンカー史の終局」として言及されるか、あるいはドイツ農業史とは切り離された「社会主義農業分析」として、または戦後東欧のスターリン化の一環として言及されるにすぎず、その実証研究はほとんでなされてこなかった。こうした反省にたち、第一に、20世紀ドイツ農業史の文脈の中で一連の過程を位置づけなおすこと、第二に単純な上からのスターリン化過程としてではなく、戦後的な状況に規定された農村社会の再編過程として、社会史的な観点から分析すること、以上の2点を課題として、現在、アルヒーフ史料を基づいた分析を行っている。とくに @新農民村落か旧農民村落かという村落形態の違い、A戦後の大事件である農村難民問題のありよう、B農地のみならず、家畜、トラクター、農業用建物などの農業経営資本や住宅など、農村の物的資源のあり方、以上の点に着目した分析をしている。

  3. 近代ドイツの農業労働者に関する社会史的研究
     かつての近代ドイツ農業史においては、近代的な農業経営への推転に「成功/失敗」した東エルベ・ユンカー層と、同じく世界農産物市場形成下で多様な分解を余儀なくされ、あるいはまたこれに抗しながら多様な自己組織化を志向した農民層の動向にもっぱら分析の焦点があてられ、ドイツ農村の農業労働者層については、「ユンカー論」と「農民問題」論の視角から言及される場合を除けば、完全に歴史分析の視野の外におかれてきた。しかし19世紀末から20世紀前半における農業労働者は、当該期の農村社会の深いレベルでの変容と関わる変化を経験している。近代農村社会の「新たなマイノリティ」として彼らはどのように再定義されたのか、あるいはどのような「解放」を志向したのか、それらは当該期の農村のエスニック問題や、さらには農村のナチズムの形成とどのように関わるのか。こうした問題群を、当該期にみられる農業労働者の多様性に着目しつつ、とくに<土着>と<他所者>という視点から分析することが本研究の課題である。そのことはまた、「農業労働者の社会史」という視点から近代ドイツ農村史を書き直すことをも意図している。
     
  4. 20世紀ドイツ農業・農村開発の社会環境史的研究―ナチ食糧自給政策から戦後の農業革命へ―
     日本と比較した場合、戦後西ドイツの農業構造政策(農地整備事業Flurbereinigung)は「成功」と評価される。長期的な視点からみたとき、その「成功」の一要因として景観計画に基づく「合理的な」農村空間建設の経験が注目される。それはナチス農民入植政策を前史とし、戦後の西ドイツの農業構造政策へ、また東ドイツの模範村建設事業へと継承されていく。とくに1950年代は「静かな」農業革命とも称される農業史上の転換期であり、農業・農村開発政策は、機械化・化学化などの技術革新の進行や、農業・食糧問題、戦後の大量難民などの農村社会問題とも深く結びつきながら進行した。本研究ではこうした国家の計画に彩られた20世紀ドイツの農業・農村の開発政策について、景観史と社会史の複眼的観点(これを本研究では社会環境史と名付ける)から、1930年代から1960年代までの時期を対象に、その歴史的文脈を実証的に明らかにする。そのさいにはEU農政論に還元してしまう議論ではなく、同時期の東西ドイツ農業・農村の双方を対象とすることで、冷戦期の欧州史の文脈に位置付けることをめざす。
     

<業績>
単著書 ・編著書

  1. 足立芳宏『近代ドイツの農村社会と農業労働者―<土着>と<他所者>のあいだ―』京都大学学術出版会、 1997年12月20日、1- 350, +viii 頁
  2. 足立芳宏『東ドイツ農村の社会史―「社会主義」経験の歴史化のために―』京都大学学術出版会、2011年2月18日 、1- 688 + xv 頁
  3. 足立芳宏(編著)『農業開発の現代史―冷戦体制下のテクノロジー・辺境地・ジェンダー』京都大学学術出版会、2022年7月30日、1-457+xi頁


研究論文(すべて単著)

  1. 「19世紀末北西ドイツにおける大農=農業僕婢関係:ホルシュ タイン・マルシュ地方を中心に」、『農業史年報』(関西農業史研究会編) 第1号、1987年4月、47-77頁。
  2. 「19世紀末北西ドイツにおける農業労働者と農村社会:「他所者」農業労働者と土着農業労働者」、『土地制度史学』(土地制度史学会編)、第 126号、1990年1月、1-19頁。
  3. 「初期ワイマ−ル・東部ドイツにおける農業労働者の社会統合問 題:フレミング『農業利害と民主主義』を手がかりとして」、『農業史研究』(農業史研究会編)、第23号、1990年12月、30-47頁。
  4. 「後期ワイマール時代の農村社会と農業労働者:農村ナチズム形成のもう一つの局面」、『社会経済史学』(社会経済史学会編)、第59巻第2号、 1993年7月、60(262)-88(290)頁。
  5. 「後期ワイマールのグーツの世界:近代ドイツ農村社会と農業労働者」『歴史学研究 増刊号』(歴史学研究会編)、第664号、1994年10月増刊号、122-130頁。
  6. 「後期ワイマール時代のグーツの世界:近代ドイツ農村社会と 農業労働者」、『社会科学』(同志社大学人文科学研究所編)、第54号、1995年、172-216頁。
  7. 「家と雇用とエスニシティ:近代ドイツ農村の家父長的支配と外国人労働者」、『歴史学研究』(歴史学研究会編)、第685号、1996年年6月、2-12頁。
  8. 「ドイツの土地改革−経営と難民問題の視点から−」、『農業史研究』(農業史研究会編)、第31,32合併号、1998年3月、13-24頁。
  9. 「戦後東ドイツの土地改革・集団化と難民問題」、『生物資源経済研究』(京都大学)第3号、1997年12月、59-76頁。
  10. 「近代農村社会と移動労働者問題−カリフォルニアと北ドイツの比較史論−」、『経済史研究』(大阪経済大学・日本経済史研究所編)第3号、1999年3月, 87-107頁。
  11. 「戦後東ドイツ農業における土地改革と新農民問題−メクレンブルク・フォアポメルン州 1945-1949−」『生物資源経済研究』(京都大学)第6号、2000年、1-41頁。
  12. 「戦後東ドイツの旧農民村落における難民問題−メクレンブルク・フォアポメルンを中心に−」『生物資源経済研究』(京都大学)第8号、2002年、151-183頁。
  13. 「戦後東ドイツ農村の難民女性問題−メクレンブルク・フォアポメルンを中心に−」、『社会科学』(同志社大学人文化学研究所編)、第72号、2004年、173-198頁。
  14. 「戦後東ドイツ農村における農民の「共和国逃亡」−メクレンブルク・フォアポンメルン州 1952-1955年」『生物資源経済研究』(京都大学)第10号、2004年、95〜129頁。
  15. 「戦後東ドイツ農村の土地改革・集団化と村落−メクレンブルク・フォアポンメルン州 1945-1961年−」『歴史と経済』第188号、2005年7月、50-66頁。
  16. 「戦後東ドイツ農業集団化のミクロ・ヒストリー−ロストク県バート・ドベラン郡を中心に−」『生物資源経済研究』(京都大学)第11号、2005年、21-65頁。
  17. 「戦後東ドイツ農村の「社会主義」−農業集団化のミクロ史分析−」『歴史学研究 増刊号』第820号、2006年10月, 121-130頁。
  18. 「ホーエンフェルデ村の農業集団化 −戦後東ドイツ農村のミクロヒストリー−」『経済史研究』(大阪経済大学・日本経済史研究所編)第10号2006年12月、147−180頁。
  19. 「戦後東独農村の全面的集団化と「勤労農民」 −バート・ドベラン郡 1958-1960 −」『生物資源経済研究』(京都大学)第13号、2007年、1-49頁。
  20. 「戦後東ドイツ農村の「社会主義」―戦後入植史としての土地改革・農業集団化−」『農業史研究』第43号(2009年3月)、28−39頁。
  21. 「戦後東ドイツ農村の機械トラクターステーション―農業機械化と農村カードル形成―」『生物資源経済研究』(京都大学)第14号、2009年、65-122頁。
  22. 「東ドイツ農業史研究のパラダイム転換 ―「冷戦期」から「ポスト冷戦期」へ」『生物資源経済研究』(京都大学)第15号、2010年、41-62頁。
  23. 「民族ドイツ人」移住農民の戦時経験―ナチス併合地ポーランド入植政策から東ドイツ土地改革へ―」『生物資源経済研究』(京都大学)第17号、2012年、39-76頁。
  24. 「ナチス・ドイツ「帝国圏」における農業資源開発―戦時ドイツの食糧自給政策と「東方拡張Ostexpasionj」『農業史研究』第48号、2014年3月、40-51頁。
  25. 「二つの農業革命―現代農業は、いま、どこにあるのか。―グローバル視点の比較農業環境史の試み」『農業と経済 』Vol.80 No.4, 2014年4月号, 69〜79頁。(この論説は編集時のミスで脚注が全て脱落しました。本来掲載されるべきだった脚注はこちら(Pdfファイル)をご覧下さい。
  26. (研究ノート)「「静かな」農業・農村革命―戦後西ドイツ農業史研究の新動向から―」」『生物資源経済研究』(京都大学)第21号、2016年3月、73-98頁
  27. 「歴史的視点から考える「TPPと農業」―北米等「新開国」農業史と戦後北海道酪農を素材として―」『日本の科学者』Vol.52, No.3, 2017年3月、18-23頁
  28. (研究ノート)「上北パイロットファーム入植者の戦後経験―青森県東北町・六カ所村における現地聞き取り調査から―」 『生物資源経済研究』(京都大学)第24号、2019年3月、19-64頁  (正誤表)
  29. 「農業・食糧統制から社会主義建設へ―東ドイツ農業の戦後史―」『農業史研究』第54号、2020年3月、29-40頁
  30. 「ドイツ農村の20世紀史―移動のと入植の視点から―」『経済史研究』(大阪経済大学・日本経済史研究所編)第26号(2022)、2023年1月、37-69頁

共著書所収の研究論文(すべて単著)

  1. 「19世紀後半中部ドイツにおける土着農業労働者」『小農の史的分析=農史研究の諸問題』(三好正喜教授退官記念事業会編)、富民協会 1990年5月、103-118頁。
  2. 「近代ドイツ農村社会史研究の方法によせて:農業労働者・「エ スニシティ」・農村ナチ化」『近代農史論争−経営・社会・女性−』(荒木幹雄編)、文理閣、1996年3月。67-79頁。)
  3. 「戦後東ドイツ農村の新農民問題と村落−メクレンブルク・フォアポメルンを中心に−」『経済史再考』(日本経済史研究所編)、思文閣出版、2003年、569-593頁。)
  4. 「「第三帝国」の農業・食糧政策と農業資源開発―戦時ドイツ食糧アウタルキー政策の実態―」野田公夫編『農林資源開発の世紀―「資源化」と総力戦体制の比較史』京都大学学術出版会、2013年2月、第6章所収、279-339頁 (正誤表)
  5. 「農村の社会主義体験―土地改革から農業集団化へ(一九四五‐一九六〇)」、川越・河合編著『歴史としての社会主義―東ドイツの経験―』ナカニシヤ出版、2016年8月、第3章所収、31〜65頁
  6. 「酪農家になるということ―上北パイロットファーム入植者の戦後経験」、足立編『農業開発の現代史』京都大学学術出版会、2022年7月、第6章所収、176-218頁
  7. 「西ドイツの「辺境」農村開発と農民入植事業―エムスラント開発計画:1950-1962」、足立編『農業開発の現代史』京都大学学術出版会、2022年7月、第9章所収、270-314頁

研究動向・学会コメントなど(すべて単著)

  1. 「研究動向: 近代ドイツの「村落」をめぐって」 『年報 村落社会研究』(村落研究会編)33、農文協、1997年、245-255頁。
  2. 近代史部会(1999年度歴史学研究会大会報告批判)『歴史学研究』第731号、1999年12月、41-43頁。
  3. 「2012年の歴史学界―回顧と展望―」(ヨーロッパ現代:一般)『史学雑誌』第122編第5号、2013年5月、358-360頁
  4. 「コメント:水と家畜と土壌(肥料)―農法史研究からランドスケープの歴史学へ―」(日本農業史学会2016年シンポジウム)『農業史研究』第51号、2017年3月、23-42頁
  5. 「2019年の歴史学界―回顧と展望―」(ヨーロッパ現代:ドイツ・スイス・ネーデルランド)『史学雑誌』第129編第5号、2020年5月、377-384頁
  6. 「農業史と環境史のあいだ―水をめぐる比較史―」(西洋史研究会2020年度大会共通論題報告・コメント)『西洋史研究』新輯第50号、2021年11月、189-194頁
  7. 「座長解題:農林業問題への多様な接近―地域資源の発掘と持続的利用―」『農林業問題研究』58巻第1号、2022年、4-9頁


書評(すべて単著)


報告書(すべて単著)

その他